私たち哺乳類には、背側迷走神経交感神経腹側迷走神経という3つの自律神経が備わっていて、安全性や危険性のレベルに応じてそれぞれが複雑に活性化したり、または脱活性化したりしながら、その時点での最適な状態を作り出して生活しています。

では私たちはどのようにして安全性や危険性のレベルを評価し、自律神経系はどのようにして切り替わっていくのでしょうか。

 

ポリヴェーガル理論では、安全性や危険性のレベルの評価は無意識に行われ、その無意識による評価を合図として、それにふさわしい自律神経に自動的、反射的にスイッチが切り替わるとしています。

ポージェス博士はこの働きを「ニューロセプション」と名付けました。少し難しいのですが、ポリヴェーガル理論を理解するうえでとても重要な概念になります。

 

ニューロセプションは、周囲の環境(人間関係も含む)や身体内の環境(内臓の状態など)が安全なのか危険なのかを常に検知しています。その働きは無意識に行われるため通常気づきませんが、結果として身体に現れた反応には気づくことができます。

例えばニューロセプションが無意識のうちにある環境を「危険」と評価すると、それを合図に腹側迷走神経の働きは抑えられ、防衛反応として交感神経のスイッチが入って、胸がドキドキしたりソワソワしたり、身体が震えるといった身体反応に気づくかもしれません。

 

ニューロセプションの働きについて大事なことのひとつは、安全か危険かの評価は高次の脳による判断ではなく、大脳辺縁系や脳幹を含めた部位による、無意識的な身体レベルの反応であり、意志や性格は関係ないということです。

例えばある人がトラウマのような生命の危機に匹敵するショッキングな被害に直面した場合、闘うことも逃げることもできずにフリーズし、苦痛を感じにくくするために心と身体を解離させるといったシャットダウン反応を起こしたとしても、それは意図的なものではなく、ニューロセプションによる原始的で本能的な防衛反応で、その人にとって最低限自分を守るための、自律神経系による最適な選択と言えます。

この反応をその人の意志や性格の弱さ、行動力のなさとみなすのは誤りだということを、ポリヴェーガル理論は神経生理学の見地から説明しています。

 

もうひとつ大事なことは、ニューロセプションは、時に誤作動を起こすことがあるということです。

安全な環境にいるにもかかわらず防衛反応が活性化してしまったり、反対に危険な環境にいるにもかかわらず防衛反応が活性化しなかったりすることがあり得ます。

ニューロセプションおよび自律神経系の反応パターンは、人がどんな体験をしたか、その体験の内容によって形成される面があり、人それぞれ一様ではありません。ある状況を「安全」と評価する人もいれば、「非常に危険」と評価する人もいます。

例えばトラウマを抱えた人やパニック発作を体験した人などは、現在は安全であるにもかかわらず「危険」の合図を出し、常に過覚醒の状態でいることがあります。

防衛システムのスイッチが入って「闘争/逃走」反応を起こす、という部分は間違っていないのですが、「安全」か「危険」かを評価する時点での誤作動が起きてしまうのです。

もちろんこのニューロセプションの誤作動も無意識の働きによるものであり、安全であるのにそれに見合った行動ができないことに対して、甘えているとか精神力が弱いなどと解釈することが誤りであるのは言うまでもありません。

 

 

次回は、従来の自律神経のとらえ方とポリヴェーガル理論における自律神経のとらえ方の違いを簡単におさらいしたいと思います。

 

(つづく)

 

参考文献

・ポリヴェーガル理論入門(ステファン・W・ポージェス著/春秋社)

・セラピーのためのポリヴェーガル理論(デブ・デイナ著/春秋社)

・その生きづらさ、発達性トラウマ?(花丘ちぐさ著/春秋社)

・ポリヴェーガル理論 臨床応用大全(ステファン・W・ポージェス、デブ・デイナ編著/春秋社)

 

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その0

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その1

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その2

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その3

ポリヴェーガル理論~自律神経の新しいミカタ~ その4

 

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